拉 麺 地 獄
 





ぎゃいーーーーーーーーん!!!!





 ラーメンを食い終わった筆者の背中に、突然に重たい衝撃が襲いかかった!!

筆者は思わず前のめりとなり、自らの体を抱きかかえた。

呼吸が浅い、苦しい。肩で息をする。

上半身全体が石のように硬直してしまった。あるいは、足をつるように、上半身全体がつってしまった。

とにかく上半身全体を巨大な万力で締め付けられているようで、本当に苦しい!

呼吸ができない!!

いったいどうしてしまったんだ、筆者の体は!!






…筆者は助けを呼ぶ事もできぬまま、三十分ほどラーメン屋の片隅の席でうずくまっておった。

テーブルの上には、ラーメンのカラのどんぶりと半分食いかけたチャーハン。

店は食事時で次から次へと来る客に忙しく、誰も筆者に気づかない。

その苦しみのなか、ふいに昔の記憶が蘇ってきた。

そうだ、過去にも同じ苦しみを味わった覚えがある。

まてよ、あの時も ラーメンを食った後 だったのでは?

ン?? 更にその前にも、同じような事があったのでは?



…おぼろげな記憶を辿っていくと、確かに少なくとも過去にニ度は、筆者の体はこの苦しみを味わった事があるようだ。

それもすべてが、ラーメンを食った後で!




苦しみのなか、どうにか金を払って店を出、一目散に帰宅。

しばらくねっころがっていたら、発症から一時間後くらいには、何事もなかったように健康体に復活した。

なんだったんだ、今のは…。








■ 翌日、友人に、

「どうも筆者、ラーメンを食うと死にそうになる事があるみたいなんだよね」

と昨日の仔細を話すと、その友人は(また筆者がバカな事を言い出した)と思ったのだろう、笑いながら、

「そんなおかしな病気聞いたことがないし、自分はなったことがない」

というように答え、

最終的には、


「羊の呪いなんじゃない」


と、愉快そうに笑いながら、結論づけたのだった。(※脳髄地獄参照)

筆者は乾いた笑みを浮かべたが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔に。

実際に死ぬほどの肉体的苦痛を味わっている為、どうしても茶化す気分になれなかったのだ。

(ちなみに羊脳事件以前にも、この苦しみを味わった記憶がある為、

羊の呪い、あるいは生脳を食した影響ということはありえなかった)









■ 現代社会には実に便利な、ありがたい道具がある。インターネットである。

筆者は、筆者と同じ「ラーメンを食うと死にそうになる」悩みを持つ仲間の存在を求めて、

キーボードとモニターとにすがりついた。

小一時間ほど調べ、ある掲示板に辿り着いたとき、筆者の動悸が高まった。


「あった!」


…本当にあるとは思わなかった!

驚くべき事に、筆者と同じような症状をもつ命の同士のカキコミに行き当たり、

その結果ついに、「ラーメンを食うと死にそうになる」という、

筆者を苦しめたその奇病の正体が明らかとなったのだ! (ぶらっくほすぴたる風)





その名も、








中華料理店症候群
(Chinese Restaurant Syndrome)


1968年Schaumburgらが報告したもので、灼熱感、顔圧迫感、胸痛、頭痛などを主徴とし、
このような症候群が中華料理を食べた者に起こることから中華料理店症候群と呼び、
その原因はMSGの大量を空腹時に摂取したとき感受性の強いものに起こるとされている。

1972年東京で、多量のMSGを含んだ酢コンブあるいは中華料理を食べた50人前後のヒトが、
悪心・頭重感・頭痛・眩暈・頭部及び手足の痺れ、胸部圧迫感など中華料理店症候群を発現し、
失神寸前のものもあったが、このときのMSG推定摂取量は3.3〜14.3gであったとされている。




いや、驚いた。まさにこれだ。こんな奇矯な症候群が実際にあったとは…。

筆者も確かに、ラーメンを食ったら100%の割合で、この症状が現れるというわけではない。

筆者の記憶によれば、この症状が現れる場合は、「大量を空腹時に摂取したとき」、

つまり、


「なんらかの事情で昼飯を抜いた後、夜になって、

『食って食って食いまくってやる』と呟きながら、ラーメン屋等に駆け込んだとき」



なのである。






 






この段落はいささか真面目な話になる。

中華料理店症候群というものについて、ある程度の概略を求める方々の一助となれば幸いである。



■ MSGとは、マイケル・シェンカーとは何の関係もなく、グルタミン酸ナトリウムのこと。

この物質は化学調味料として用いられる。

中華料理店では、大量にこの種の化学調味料を使用するため、中華料理店と同症候群が結びつき、

中華料理店症候群の名前がついた。



MSGに関する様々な呼び方の関係は次のとおりである。("=" … イコールを表す)

MSG = Monosodium Glutamate = グルタミン酸のナトリウム塩 = グルタミン酸ナトリウム = グルタミン酸ソーダ

= アミノ酸の一種であるグルタミン酸の2つの酸性基のうちのひとつに、ナトリウムがついたものの結晶


>ウィキペディア : グルタミン酸ナトリウム







■ ただし、うまみ調味料関連の会社のサイトなどを見てみれば分かるのだが、

そういった会社は、中華料理店症候群とMSGの関係を否定している。


…ということで早速、某大手有名会社に電話してみた。回答は次のようなものだった。


・グルタミン酸ナトリウムと中華料理店症候群とは関係がない。根拠のない話である。

・中華料理店症候群との関係において、当社では商品の安全性を科学的(二重盲検法)に証明し、

 FDA、WHO等にデータを提出してある。

・上記の事に関しては、現在特に、当社が一般向けに表明した論文やコンテンツはない。







■ …こうした某大手有名会社が言うように、MSGと中華料理店症候群は本当に関係ないのだろうか?

反対に、MSGと中華料理店症候群は関係があるといっている人もいる。

本当のところ、どちらが正しいのだろう?

MSGに対する科学的調査周辺の、歴史的な経緯を調べてみた。



1988年

国連食糧農業機構 (FAO) と世界保健機構 (WHO) の食品添加物専門家合同会議 (JECFA) が、

ヒトで二重盲検の詳細な検討を行なった結果、

グルタミン酸ナトリウムが中華料理店症候群や他の特有の障害の原因であることを確認することはできなかった。

グルタミン酸ナトリウムの1日許容摂取量を特に定める必要は無いと決定し,

また妊婦や幼児における特別な注意についても触れなかった。

1991年

ヨーロッパ委員会の食品科学会議 (SCF) も同様の結論に達する。

1995年

実験生物学会連合 (FASEB) から米国食品薬品局 (FDA) に報告書が提出される。(詳細は下記)




■ FDA(米国食品薬品局)とは、アメリカにおける、日本でいえば厚生省のようなもの。

>ウィキペディア : FDA

MSGの安全性については現在のところ、FDAのレポートが、最も信頼できる内容なのではないかと思われる。

下記アドレスから、そのレポートを見ることができる。

http://vm.cfsan.fda.gov/~lrd/msg.html




察するところ、FDAの結論は要するに、

「MSGは安全である。しかし、ある人々はMSG複合兆候を引き起こす場合がある」ということらしい。


MSG複合兆候(MSG symptom complex)とはなにかというと、レポートの下のほう、

" 1995年のFASEBレポートの主要な調査結果"の箇条書きに書いてあるので、そのまま訳す。

(注:筆者が勝手に訳したものであるので、この訳文・訳語に責任は持たない。

まじめに参考にする場合はFDAの原文を参考にする事)





[引用:訳]

・人口に対するパーセンテージはよくわからんが、ある人々はMSGに反応し、次のような特徴をもつMSG複合兆候をひきおこす

・首のうしろ、前腕、および胸の灼熱感

・首の後ろの、腕や背中にまで広がる麻痺

・顔、こめかみ、背中の上部、首、腕、の、うずき、微熱感、衰弱

・顔の圧迫感、締め付け感

・胸痛

・頭痛

・吐き気

・心臓の鼓動が速くなる

・喘息を伴うMSGに耐性がない体質の人々における、気管支痙攣(呼吸困難)

・眠気

・衰弱


・また、健康ではあるがMGSに耐性がない体質の人々は、

 空腹状態で(あるいは他の食べ物をとらずに)MSGを3g以上摂取すると、

 一時間以内にMSG兆候をひきおこす傾向がある。

 グルタミン酸塩を扱う食物の標準量は、MSG0.5グラム未満である。

 反応が起こるのはほとんど、MSGの大量摂取、あるいはスープなどのような液体によるMSGの摂取の場合である。


・重度の、コントロールが十分でない喘息は、MSG複合兆候を引き起こしやすくさせるかもしれない。


・グルタミン酸塩やMSGの摂取が、アルツハイマー病、ハンティングトン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症、エイズ痴呆、

 またはいかなる他の長期的・慢性の病気を引き起こす恐れを示す証拠はない。


・グルタミン酸塩やMSGの摂取が、脳障害を引き起こすか、または人間の神経細胞を損なう恐れを示す証拠はない。


・人間の体のビタミンB6のレベルは、グルタミン酸塩の新陳代謝において役割を果たす。

 必要最低限のB6の摂取の考え得る影響は、今後の研究課題だ。


・「タンパク質のなかのグルタミン酸塩のレベルが、体に悪影響を引き起こす」だとか、

 「製造されたグルタミン酸塩は、食物のなかのノーマルなグルタミン酸塩とは異なった効果を持つ」だとかいう事には、科学的根拠がまったくない。


[引用:訳、ここまで]





これを読めば、「MSG複合兆候」なるものが、中華料理店症候群の諸症状と同じである事に気づくだろう。

「MSG複合兆候」と「中華料理店症候群」は内容的に同じ

であるならば、「グルタミン酸ナトリウムと中華料理店症候群とは関係がない」という言葉は誤りとなる。

結論はこうである。


「グルタミン酸ナトリウムは、MSG複合兆候(=中華料理店症候群)を引き起こす。

FDAはこのことを認めている」










■ 中華料理店症候群を扱った多くのサイトなどに誤りが見られるが、上のように、

FDAは、MSGによってMSG複合兆候が引き起こされることがある事実を、認めている。


「グルタミン酸ナトリウムと中華料理店症候群とは関係がない事は科学的に証明されている」だとか、

「中華料理店症候群は、思い込みでなる」とか、

言っている人や会社はすごく無責任だと思う。

MSGによって苦しみを味わう人が実際にいるのに、そうした人がごく少数だからといって、

その事実を無視してしまってもいいのだろうかねえ。

体験談をみると、なかには筆者よりももっと酷い症状の人だっているようだよ。




醤油を大量に一気飲みしたら死ぬらしい。だからといって「醤油=危険」とはならない。

なぜかといえば、普通はそんなに大量に飲めないからだ。

もし醤油が飲むのに好ましい味で、大量に飲めてしまったら「醤油=危険」となる事だろう。

MSGというものは、大量に飲めてしまうのである。

MSGは、一部の人々にとっては、たいへん危険なのである。




筆者の調査では、この報告書以後の中華料理店症候群の足取りがつかめなかった。

1995年からもう十年以上も経っている。なにか新しい論説が出ていてもおかしくないと思う。

なにかご存知の方がいらっしゃれば教えていただきたい。









■ さて、筆者の実家では、母親は料理のとき、うまみ調味料は使わなかったので、

きっと筆者は他の人より耐性がないのだろう。

大好きなラーメンで、こんなことになってしまうとは、世の中せつないものである。

だが要は、ラーメンを食うときは昼飯を抜かなければよいのだ。スープも飲みきらないほうがよいだろう。



もし読者諸氏が同様の症状に見舞われたときは、安静にして横になっているしかない。

一時間くらいで症状はおさまるだろう。

そして、次からは注意してラーメンやチャーハンを食いたまえ。

ファミレス等のラーメンも危ないぞ。





 







さて、その事件以来、無化調という言葉が気になり始めたわけだが、

ある日母親が、「あんたいってこやー」と、

筆者にラーメン屋の割引券をくれた。

それはちょうど筆者の勤めていた会社の近くで、しかもこだわりの無化調スープとのこと。

是非行ってみなければなるまいと思い、翌日、割引券を握ってその店にむかった。





昼の11時頃だった。店は閉まっていた。入口に張り紙が貼ってあり、汚い字で、


スープ調整中につき

しばらくお待ちください

          店主


と書かれてあった。




なるほど、さすがはこだわりのスープ、ちょっとはやく来過ぎたか、と思い、

その日が定休日ではないことをしっかりと確認し、

もう一度後で来てみる事にした。






12時にもう一度のぞくと、まだ店は閉まっていた。


そんなものかと、職場に戻った。


ひと仕事終えて、「腹が減ったー!」と、14時ちょっと前にもう一度来てみた。


まだ閉まっていた。




さすがに、(おかしいな?)と、思ったところへ、ちょうど店のおばちゃんがバケツを持って出てきた。

筆者はすかさず声をかけた。




筆者 : 「お店、いつ開きますか?」

おばちゃん : 「スープの調整が出来次第だからねえ」

そして、その直後、おばちゃんは信じられない言葉を口にした。
















おばちゃん:「まああと二週間くらいはかかるわね







… にしゅーかん ……

ファッキン…クレイジイ…… 

こだわりすぎだろう………


こちとら三時間前から昼飯食おうと待ってるのに、あと二週間も待てないよ、おばちゃん!

「しばらくお待ちください」の「しばらく」が、二週間??

ここはどこの田舎? 名古屋市内だよ!?

ねえ、教えてよ、おばちゃん!!(心の叫び)





その後、ラーメン屋の経営というものについてじっくり考えながら、

かなり空腹なのでMSGがやばいかな…とか思いつつ、結局ラーメン食いたさに、

近くのミスドで坦々麺を食った。あまりうまくはなかった。

ふと、母親にもらった例の割引券の有効期限を見たら、一週間先までしか使えなかった。

なんだこの店。。。○| ̄|_









二週間後、行ってみると、約束どおり店は開いておった。

こだわりの特製スープのラーメンは、派手さはないが、堅実なうまさだった。

だが更に二週間後、行ってみると、また入口に張り紙がしてあり、汚い字で、



店主療養の為

しばらく休みます

          店主




と書いてあった。

そしてその後、いつまでたっても店は再開せず、張り紙もいつのまにか消えていた。



潰れたのだと確信した。

その後、ラーメン屋の経営というものについてじっくり考えながら、

近くのミスドで黒ゴマ坦々麺を食った。なんだか世知辛い味がした。













■□■  法無地獄 > 素敵地獄 > 拉麺地獄  ■□■

Copyright (C) 2002 瓶詰天獄・人形地獄 メールはこちら

もどる << >> フレームをはずす  刀@頁頭へ